PAGE1 あややはこうでなきゃいけないじゃん!
松浦亜弥、hotexpress初登場! とにかく楽しくて仕方がなかったデビュー当時、自分で作り上げてしまった“あやや像”に潰されそうになってしまった18才、表現者としての自我と意思の芽生え、そのすべてを飲み込んで辿り着いた『きずな』。自分に正直でありたい―――、そんな彼女の人間性がそのまま溢れ出たインタビュー、ぜひご覧頂きたい。
--実はデビュー当時から松浦亜弥の表現力の素晴らしさに注目していてですね、『ドッキドキ! LOVEメール』や『トロピカ~ル恋して~る』みたいな楽曲を全力で楽しんでいる姿を見て「只者じゃないな」と思っていたんです。「なんで新人なのにこんな自身満々なんだ?」って(笑)。実際のところ、デビュー当時はどんな心境だったりしたんですか?
松浦亜弥:楽しんでました!本当に。ただ、純粋な気持ちで楽しめていたのは、デビューしてから2,3年だったと思いますね。何にも知らないから「ただ楽しい」でやれちゃったっていうか。でも歳を重ねて10代の後半とかになってくると、自分が何かひとつやることによって「これだけのスタッフが関わっているんだ」とか「これだけの時間が費やされているんだ」とか分かるようになって。で、それが分かりだすと、いろんなことを考え出しちゃうんだけど、最初は何も知らないから、もうとにかく楽しいっていう。
--比較的早い段階で“アイドルの代表格”的な見られ方をされていったじゃないですか。で、確かにそれを心底喜んでいる感じがあったんですよ。「どれだけ自分のこと好きなんだ?」みたいな(笑)。松浦亜弥:本当大好きでした!アッハッハッハ!間違いないです(笑)。ただ、ビックリはしていたんですよ。自分のプロモーションビデオや自分がテレビの中で喋っている画っていうのは、不思議で仕方なかったですね。「テレビの中に自分がいる!」っていうので落ち着けなかったりはしたんですけど、でも本当に単純に嬉しかったですし、たくさんの人が応援してくれればしてくれるほど、自分も燃えましたし。
今はオン・オフというか、切り替えができるようになったんですけど、デビュー当時はまだそこまで起用ではなかったんで、プロモーションビデオひとつにしても、自分の気持ちが100%になるまでカメラの前に行かないとか。で、カメラの前に立ってやってみました、その映像を見て自分が納得できない。それで気持ち待ちみたいなのがよくあったりしたんですよね、昔は。それぐらいいつも100%で画面の前に立つ気持ちで。
--14,5才でそうした状況になって、半端なく忙しいし、いろんなことが目まぐるしく動いていく中で、それが苦しくなったりはしなかったの?松浦亜弥:それは2,3年に1回は必ずあります。今、デビュー8年目なんですけど、3回ぐらいはありました。プレッシャーを感じたこともあれば、自分というものがよく分からなくなったり、いろいろあったんですけど、一番自分の中で大きかったのは、ちょうど18才になるタイミング。初めての休みがデビューして1年半後だったっていうぐらい、ずっと本当に忙しかったんですね。で、やっぱり全部が全部初めてのことだったので、振り返る時間がなかったんですよ。自分が出演している番組をチェックしている時間もないとか、そんな中でずっとやっていたので。でも18才になるタイミングで初めて振り返ったんですよね、自分というものを。
それで気付いたんですけど、自分が「アイドル」って呼ばれるのに馴れてきて、仕事をこなすじゃないですけど、心から笑うってことをしなくても、心から笑ってるような表情ができるようになっちゃったんですよ。自分のベストの顔っていうのを顔の筋肉が憶えちゃって、気持ちが笑えなくても笑えるようになっちゃったんですよね。それで自分の写真を見てみたら、目が笑ってないじゃないですけど、全部同じ顔に見えて。そういう自分に対して“?”を抱いたときに、なんか、一瞬止まっちゃいました。で、自分が人形に感じてしまって。「それじゃダメだ!」と。「もっと自分の気持ちで動いて言葉も発していかないと!」って思ったんです。
マニュアルがあったわけじゃないんですけど、正当な、当たり障りのないコメントっていうのをずっと続けてきていたように感じたんですよね。でも「そうじゃなくって、人間なんだからもっと人間味のある言葉を発していい」って思って。そんな感じで「自分に正直でいたいな、素直でいたいな」って思ったのが18才のときでした。それからはライブのMCでも自分の気持ちで喋ってみたりとか。あとで誰かが何か言うかもしれないけど、それでもいいから素直に喋ってみようって。そしたらお客さんの反応がいつもより良かったりして。で、スタッフさんの評判も良くて。ということは、勝手に自分で自分を殻に閉じこめていただけだったんですよね。それに気付いたんです。それで乗り越えることができました。
--デビュー当時に意図せずに出来上がった“あやや像”を一生懸命キープしようとしてきたんでしょうね。松浦亜弥:そうなんです。いつも自分をちょっと客観的に見てる自分がいて。“あやや”っていうのを客観的に見てて「あややはこうでなきゃいけないじゃん!」って自分で勝手に作っちゃってたんですよ。それがいけなかった。
PAGE2 10年20年経っても歌える曲--で、あややは『桃色片想い』や『Yeah! めっちゃホリディ』のようなアイドル要素やエンターテインメント色の強い楽曲がずっと好きで、そうした楽曲をずっと歌っていくと思っていた人も多かったと思うんですが、昨今はもっと幅広い世代に発信できる楽曲をリリースするようになっていきました。松浦亜弥:そうですね。自分がどうしてこの世界に入ったのかって言うと、それは歌がうたいたくてなんですよ。で、自分が憧れている人だったりとか、自分が普段曲を聴く人たちって、音楽性もそうなんですけど言葉が魅力的で。私は言葉に注目していつも音楽を聴いているんですね。で、例えば『Yeah! めっちゃホリディ』って「どういう意味やねん!?」って感じじゃないですか(笑)。そういう曲は曲ですごくキャッチーで良いんですけど、自分が何年経っても、10年20年経っても歌える曲だったり、みんなが言葉に共感してくれる歌をうたいたくて。それで今作『きずな』だったり、前作の『笑顔』のような歌をうたうようになってきたんです。
--実は、そうしたアイドルの枠を超えた表現者としての活動を松浦亜弥はいつかしていくんだろうなと僕は思っていてですね、まずそれを感じたのが、2003年に公開された映画『青の炎』だったんです。好きな人が殺人者になってしまうという非常に難しい役どころだったと思うんですが、完全にその役に入って演技されていましたよね?松浦亜弥:環境もそうだったんですよね。蜷川幸雄監督がまず100%ドップリ役に入らないと、OKを出さない人で。私が撮影に入ったのは、ニノ(二宮和也)とかよりも全然遅かったんですけど、それでもちょっと早めに入って見学とかしてて、その感じはすごく分かっていたし。で、私も初めての映画だったし、やっぱり「良い作品にしたい」「自分のできることは100%やりたいな」と思っていたので、自分の中でキッチリ作っていって。監督からのご指示っていうのは何もなかったんですよ。「自分は今の若い子のことなんて分からないから、あややとニノに任せる。セリフだって変えちゃっていいし、好きなようにやって。それで俺に今の子たちの考えを教えて」っていう感じだったので、それにはちゃんと応えたいと思いましたし。だからいつもニノと話し合ってましたよ。ほとんどテイク2はやらせてくれないんで、基本一発OKにしなきゃいけなかったし(笑)。でも最初にあの映画で蜷川さんに出会えて良かったです。
--その後も女優のお仕事はいくつかされていますが、音楽同様、かなりやり甲斐を感じているんじゃないですか?松浦亜弥:感じますね。舞台とかミュージカルとかから得られるものもたくさんありますしね、発声の方法もそうですし、あとは気持ちの入れ方。それは周りの役者さんを見てて勉強になるし。得られるものは毎回ありますね。
--あとですね、番組名は忘れてしまったんですけど、確かNHKの音楽番組でジャズバンドをバックに歌われたりもしていましたよね?松浦亜弥:桃井さんの番組ですね!
--あの番組を観たときに、これからはもっとアーティスティックなことだったり、音楽の深いところだったりを追求していきたい欲求が出てきているのかなって思ったんです。松浦亜弥:まず生の音が好きなんですよ。自分の声という楽器もそうですけど、みんなが奏でる生の音が合わさった瞬間の快感ってすごくて。そのグルーヴ感というか、みんなが手と手を繋いで何かやっているかのような一体感がすごく好きで。その楽しさは、桃井さんの番組もそうですし、そうした場面場面で知っていったんですよね。「あ、こういうところに行きたい!」ってすごく思った。
--映画もそうだし、生バンドで歌うこともそうだし、今までの枠を超えていく、今まで飛び込めなかったところに飛び込んでいく機会が、あるときからすごく増えていきましたよね。松浦亜弥:そうですね。「チャレンジはいつもしていたいな」と思うんですよ。最初から「これは無理だろ」っていう壁を作るのはあまり好きではない。やってみて出来なかったらそれは仕方ないけど、「とりあえずやってみよう!」って思うタイプなので。そういうスリルは好きなんですよね。毎日毎日安定の中で生活をしていくよりは、ハラハラドキドキしている方が自分には向いてるんだと思います。馴れちゃうと飽きちゃうので。
--で、新曲『きずな』なんですが、この曲を聴いていて、知りたくなったことがあって。今、松浦亜弥が音楽を通して伝えたいことや形にしたいことってどんなものだったりするの?松浦亜弥:もちろん「この世代がターゲット」みたいなのは全然ないんですけど、親の世代、自分には子供がいますっていう世代の人たちに「意外と私たち、考えてるんですよ」っていうことが伝わればいいなって。私の周りの同世代の人たちもそうですけど、みんな意外にいろんなこと考えてて、しっかりしてて。ボーッとただ遊んでいるだけではないから。この業界は年齢関係なく、年齢差が親と子ぐらい離れてても、ひとりの大人として会話をしていくので、そういうのが世の中的にも成立すればいいなって。きちんと自分の意見を持ってる子もたくさんいるし、大人の人が「子供だから」って見下した考え方をしているから上手くいかないことも実はいっぱいあったりすると思うんですよ。そういうものを歌を通して感じてもらえたらいいなって。
それと同時に『きずな』で若い子に伝えたいと思ったのは「あなたはひとりではないんだよ」ってこと。私もそうだったんですけど、18才か19才ぐらいのときって、ちょっと何かに悩んだり落ち込んだりすると、悲劇のヒロインになりたがるんですよね。「私だけ苦しい」「みんな敵」みたいな。でも本当はそうじゃなくって、何をするにもやっぱり誰かの支えがある。「それがあるからあなたは生きていけてるんだよ」っていうことはもう一度自分たちで自覚しなきゃいけない。それが伝わればいいなって。
PAGE3 自分の作詞で曲が出せればいいな--でもどちらも説得力が必要な作業ですよね。「そんなこと歌われても」って思われてしまったら何も伝わらないわけで。それを超えていかなきゃいけない。松浦亜弥:うん。自分が経験してなかったら歌えないですからね。この曲も自分が「分かる」と思ったから「歌いたい」と思ったし。デビューの頃は勢いでやってきたってお話ししましたけど、本当にそうだったんですよ。恋愛の歌にしても、こういう大きい歌にしても、自分に経験がないから、想像とか妄想で歌うしかなかったんですよね。それがデビューして8年目で、自分にもちょこっとですけど人生経験ってものができて、いろんな人と触れ合って、話を聞いたり見たりしてきて、自分の言葉でやっと歌をうたえるようになったんです。っていうのは「人に伝える」っていう意味では、大きな変化だったんだと思います。「あ、こういう気持ちがいつの間にか自分も分かるようになった!」「自分もこういう経験してる!」ってなると、やっぱり言葉にはちゃんと気持ちって入るんですよね。
--今作『きずな』は歌う度に、正しさだったり、あるべき姿が湧き上がってくる曲ではありますか?松浦亜弥:そうですね。歌う度に自分のツボが違うんですよ。同じように歌えないんです。その日その日によって引っ掛かる言葉が違う。だから楽しんで歌えてますね。
--自分の生活や世界の状況におけるネガティブな部分を歌った上で、幸せを祈り、感謝の言葉を何度も告げる。『きずな』はそうした曲だと思うんですが、日常の中でもこの曲の歌詞のようなことは感じたり思ったりしますか?松浦亜弥:なんか、悪いニュースとか観た後って、しみじみといろんなことを考えたりもしますし。あと、普通に生活しててもそうなんですけど、「ありがとう」ってそういえばあんまり言わないなとか。親しければ親しい人ほど言わないかもしれない。「最近家族にありがとうって言ったかな?」とか、すごく考えるんですけど。ただ、この曲を歌う度に「ありがとうって口にしよう」って思えるんですよね。自分が言われたらすごく嬉しい言葉なんだし。今回の『きずな』には、本当にいろんなことを考えさせられました。
--あと、月並みな質問ではあるですが、松浦さんが“きずな”の大切さを強く感じる瞬間ってどんなときだったりしますか?松浦亜弥:例えば、家族とか、スタッフさんとかね、私の身近にいる人とのきずなを深めていくことは、あたりまえではないんですけど、たくさん言葉を交わして、お互いが納得いくまで話し合うことができるじゃないですか。で、私にオン・オフの切り替えがあるとしたら、オフの部分もちゃんと知ってる人たちだし。そういう人たちときずなを深めていけるのはよく分かるんですけど、ファンの人ってハッキリ言ってオンの部分しか知らないわけじゃないですか。なんだけど、みんな心から私のことを応援してくれていて、「何があっても付いていきます」って言ってくれて。そこのきずなより凄いものってないと思うんですよ!私はわりと初対面の人とかって疑ってしまうんです。「この人はどんな人なんだ?どういう考えを持っている人なんだ?」って、なかなか信用ができないタイプなんですね。小心者なんで、傷付きたくないんで(笑)!なのにファンのみんなは100%心から応援してくれる。そのきずなは凄いなって思います。それこそ本当に「ありがとう」って思いますね。私が誰かにそういうことが出来るか?って言ったら難しいですもん。
--で、“きずな”を強く感じる場と言えば、現在絶賛敢行中の【松浦亜弥コンサートツアー2008春『AYA The Witch』】ですよ。どんな内容になっているのか、話せる範囲で良いので教えてもらえますか?松浦亜弥:今回はずーっとやりたかった、全部生の音のフルバンドでやってるんですよ。だから「みんなも一緒にグルーヴ作りましょ!」「みんなも一緒にひとつになりましょう!」っていうのが、本当に自分次第で。なので私にとってはすごく勉強にもなりますし。チャレンジでもあるんですけどね。すごく楽しんでやってます。昼夜と1日に2回公演を基本的にはやってるんで「ペース配分しなきゃ」とは思うんですけど、毎回ぐったりするんですよ。ステージ立ってると全然気付かないんですけど、着替えたりしてると「あ、疲れてる」って。体は正直(笑)。でも2回目が1回目以上にできないかって言うと、全然できちゃうから、やっぱりみんなの声ってすごいなって思いますね。自分でもコントロールできないテンションを上げてもらえちゃうんで。
--そういう意味では、やっぱりライブは好き?松浦亜弥:大好きですね!私は1番ライブが好きです!ミュージカルとかも好きなんですけど、松浦亜弥でいられるのは自分のライブなので。私、喋るのも大好きなんですけど、喋るより何するより歌ってるときが1番素直でいられるんですよね。喋ると「面白く喋りたいな」「綺麗に話したいな」とか、いろいろ考えちゃうじゃないですか。なので、1番素でいられるのは歌っているときだと自分は思うので、そういうところをたくさん見てもらいたいなと思います。
--では、最後の質問になるんですが、松浦亜弥、この先どんなアーティストになっていきたいなと思いますか?松浦亜弥:最近ようやく思えるようになったんですけど、自分で詞を書きたいなって。前に「そろそろやった方がいいのかな?」って焦ったことはあったんですよ。20歳になったときぐらいだったかな?それでちょうど悩んでるときに、ユーミンさんのラジオ番組にゲストで呼んで頂いて、相談をしたんですよね。「作詞とかってやっぱりした方が良いんですかね?」って。そしたら「詞なんて書きたいなって思ったときに書くのが一番良い」「書いて頂いた詞、曲っていうものを飲み込んで表現するほど難しいことはないんだよ、実は」っていうお言葉を頂いて、それから焦るのは止めたんですよ。でもここ1年2年で「自分の言葉で表現したらもっと気持ちが入るかもしれない」「自分の経験したことを詞に残してみるのもいいかもしれない」って思って、ちょこちょこ書き出して。でもまだちょっと恥ずかしいんですよ。日記を読まれている感じもするし、思ったまんま書いてしまうんで綺麗にできなくて(笑)。でもそれが納得できるようになれば、そう遠くならないうちに自分の作詞で曲が出せればいいなと思っています。
きずな松浦亜弥
発売日:2008.05.21
ZETIMA
EPCE-5558
¥1,050(tax in)
『ドッキドキ! LOVEメール』や『トロピカ~ル恋して~る』みたいなデビュー当時の楽曲を知る者からしたら、あややがこんなに深く重い、人間の生きるテーマみたいな歌をメッセージするようになったことは感慨深いだろう。自分の生活や世界の状況におけるネガティブな部分を歌った上で、幸せを祈り、感謝の言葉を何度も告げる。『きずな』はそうした曲なのだが、そうした曲を情感たっぷりに歌い、説得力を感じさせるのが、今の松浦亜弥である。デビューから数秒でスーパーアイドルに登り詰めた女の子が、長い歳月を掛けてようやく掴めた自分。そして『きずな』。この曲は空想や妄想でなく、彼女のリアルな想いとして響いている。(REVIEW:平賀哲雄)
01.きずな
02.ひとり(single version)
03.きずな(Instrumental)
http://www.hotexpress.co.jp/interview/ayaya_080521/